「大丈夫だよ。俺は信じてるから」
あぁ どうして自分は、コウを信じることができないのか。
「こんな写真が、シロちゃんのところに」
コウをシロちゃんに取られるのは嫌だ。
でも私も、コウを信じたい。
後ろ手に縛られた美鶴の写真を見て、蔦康煕はまず聡へメールした。
「よくわからないけど、いつもなら駅舎に居るんだろ? 金本の傍にいればとりあえず安心だ」
だが返ってきたのは、切羽詰った聡の電話。
「何でお前が、美鶴の居場所なんて聞くんだよ?」
「ええっと、本当によくわからないんだけど、とりあえず居場所が知りたいって言うか。一緒じゃないのか?」
「美鶴、今どこにいるのかわからないんだっ」
ツバサの背筋に寒気が走った。
「こんなコトになってたなんて……」
その先の言葉が見つからない。
澤村優輝の霞む視線が、そんなツバサから、支えられる里奈の姿へ。
なんとか意識を取り戻すも、放心状態のままズルズルと壁を背に座り込む。
「なぜだ?」
ぼんやりと瞬く。
「なぜ………」
掠れる声。
なぜなんだ?
頭の隅で、声が響く。
「今日の勝利は、お前だけのモノじゃあないぞ」
ボクのモノじゃないの?
「今年のベストメンバーに選ばれたのは、クラブのコーチのおかげだな」
ボクの力じゃないの?
「ユウちゃん、ダメよっ! せっかく買ってもらったパソコンをそんなふうに扱っちゃ」
どうして? ボクのモノなのに?
「ボールはみんなのモノだ。お前だけのものじゃない」
じゃあ……
澤村優輝の両親は、それほど厳しかったワケではない。ただ、優秀で恵まれた息子が環境に溺れるのを、避けたかっただけ。
素直でくちごたえの少なかった優輝は、学校の成績も優秀で、サッカーでも華々しく活躍した。
だが、どれほどに優輝が活躍しても、父からも母からもお褒めの言葉を授かることはなかった。
なかったと、優輝は感じていた。
「最優秀選手になったからって、ウカれてるんじゃないぞ。これからが大事なんだ」
父としては、活躍する息子が天狗にならぬよう、他の子供から必要以上の僻みを受けぬよう、配慮したつもりだった。
人間とは、成功した相手や自分より上だと感じる人間を見つけると、ついつい揚げ足などを取りたがる生き物だから。
だが、まだ狭い世界しか知らない優輝に、父の想いは届かなかった。理解できなかった。
「さっきのゴール、水野のアシストのおかげだな。澤村と二人で一点だ」
クラブチームのコーチは、優輝の才能を高く評価した。故に、強い選手になってもらいたかった。
だが、その想いも理解できない。
「次回のテストも、頑張るのよ」
学校の担任は、優輝を誇りに思った。故に自惚れて欲しくなった。
だが、その想いも届かなかった。
何もかもが、自分を認めてはくれない世界。
「テストで100点? 当たり前だ。家庭教師の先生がいるんだから」
当たり前?
「筋トレ? 他のクラブの選手はもっと頑張ってるぞ」
そんなコトはわかっている。そんな言葉が聞きたいんじゃない。ただ―――
「ニンジンが嫌い? ワガママ言うんじゃないの。世の中には、食べたくっても食べられない子がたくさんいるのよ」
そんなヤツらと一緒にするなよっ!
優輝はぼんやり、視線を落す。
暗い暗い、冷たい床。
なぜ? なぜ誰も、認めてくれない?
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